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夜明け間際のカンツォーネ

少し前、ヘルマン・ヘッセの「車輪の下」という小説を読んで、その美しい描写に感銘を受けました。
また、ヨースタイン・ゴルデル「ソフィーの世界」のやさしい語り口にも感動を覚えちゃった僕は、なんとかその「美しさ」、「やさしさ」を自分の作風にも組み込みたいなと思うようになりました。
で、その勢いのままに、何も考えずに(序文だけ)書いちゃったミスチーSSがこいつ。

【夜明け間際のカンツォーネ】 


『まるで――ついさっき、世界が創造されたみたい』

 少女はそう思わずにはいられなかった。

 どこまでも透き通るような青色に、瑞々しい緑の輝き。
 天から降り注ぐやわらかな光と、それを静かに抱きとめている夜の闇。
 そうやって眼前に広がる光景が、それ以外の色をまだ少しも持ち合わせていなかったから。

『きっと神様は、まだ色の調合を終えていないのね』

 少女は心の中で息をひそめた。
 そうして改めて眼を凝らし、辺りの様子を伺ってみれば、驚くほど自然に感嘆の声が溢れ出た。

『"まじりけ"のない色って、なんて美しいのかしら――』

 それは例えば、足元近くで滾々と湧出する水の色彩だった。それから周囲を覆っている、"つるつる"とした大きな水成岩も、よく見ればひんやりと冷たそうな青みを帯びている。その表面のところどころに繁茂しているヒカリゴケは、薄闇の中でも金緑色の燐光を放ち、浅い水たまりの底で湧水に揺れるミズスギナの群れを照らし出していた。時折、彼らの拵えていた細かな泡沫が水面に浮かび上がっては消えていく。

 暗くは無かった。

 洞穴はそれほど深くはないし、それにこの記念すべき夜は、年に数度あるかないかの素晴らしい星空を宿している。加えて少女は夜目が利くのをひそかな自慢にしていた。だから、胸元へ頼りなさげに飛来してきた蛍をその手に留めてやり、そしてまた指先から飛び立たせてやるのも彼女にはたやすいことだった。少女が三度、ゆっくりまたたきをする間に、蛍は背の高いシダ植物の茂みへと潜り込んでいった。
 蛍火の明滅する様子だけが、今もかすかに垣間見えている。

 怖くも、無かった。

 年端もいかぬ少女が人里離れた森の中をひとりで、それも日が落ちてから散策し、清流の淵に見つけた小さな洞穴の中へ踏み込んでいく。それがどれほど危険な行為であるかは彼女も重々承知していた。人食いのあやかしに出会ってしまう可能性は決して低くない。また近頃は『妖怪狩り』を大義名分に不義不徳をはたらく悪漢も出没するという。そうした危険性を熟知している者はみな、何かしらの対策を講じているのが常だった。武装するなり、専門の案内人に連れられるなり、風祝の巫女が道すがらに点々と拵えたという、小さな魔除けの社に縋り付きながら細々と歩くなり――しかしこの少女は違った。少女はある"予感"に突き動かされていた。この予感の正体を確かめることさえ出来た後なら、妖怪に食べられてしまっても良いとさえ彼女は思っていた。

 それは。
 ただ、美しかった。

 美しい声だった。美しい抑揚だった。美しいポルタメント――迷いも淀みも一切感じさせないほど伸びやかで、またなめらかな音階の遷移だった。
 この創世記の洞穴で反響した歌声が遠く離れた少女の耳朶へと届き、それでもなお躍動美に溢れる旋律が彼女の心を震わせ、この場所へ向かわせたのが、ほんの半刻ほど前のこと。今もその生命賛歌は変わることなく――否、むしろより軽やかに、より高らかに、そして明確さを増して――少女の初々しい心の内へ気持ちよく浸透していくのだった。

 何よりも。
 ただ、ただ、それは。
 息を飲むほど神秘的な光景だった。

 天蓋が覗いている。
 満点の星々がその広大な海の中で煌々と輝き、少女の頭上にあいた岩盤の隙間を縫って、洞穴の中に幾条もの光の柱を降ろしていた。ゴツゴツと重たそうに積みかさなっている岩石は、だけれどその肌に背の低くて柔らかそうな草を生やしていることがシルエットから分かって、少女にはそれがすごく綺麗で、幻想的にみえた。細々とした光は手近な仲間と束になって洞穴の底を照らしている。するとやはり、滾々と湧出する水の青さが目を惹いた。やさしく流れる水の音とその匂いが、ふわりと辺りに満ちていくのを少女は感じ取った。

 そうした光の束の中で、一際眩しいものがある。

 すっと線を引いたかのように真っ直ぐなその光は、洞穴の中央の、地中からちょうど切り株のように突きだした方解石に向かって伸びていた。全体的に丸みを帯びた、雪花石膏≪アラバスタ≫を連想させるつややかな岩だった。

 その岩にすらりと品良く腰掛けて。
 星々の祝福するような光を、生まれたままの姿で一身に受け止めている少女がいた。

 きめ細やかな白い肌が、惜しげもなく光の柱にさらされている。
 恥じらいの色はない。かわりに彼女は、自らの体躯ほどもある大きな翼を――白い翼を広げ、誇らしげに羽を伸ばしていた。水浴びをしていたのだろうか。彼女の肌や羽、淡い桃色の髪のそこかしこから小さな雫が滴り、舞っている。その雫は勿論ながら、降り注ぐ光をその内に閉じ込め、きらりと輝きながら華奢な身体に沿って伝い落ちていく水滴もまた、宝石と同等の美しさと評するに値した。

 そして、彼女は悠然と夜空を仰ぎ見て。
 天使のような――そう、まさに天使のような歌声を、響かせているのだった。

「――天使、さま?」

 それは確かに、創世記の一場面。
 純粋で、美しく、綺麗で、穢れの知らない、世界の根源。
 アダムもイヴも、カインもアベルもいない原初の地で。

 少女は、ミスティア・ローレライと出会った。
 また、あるいは――
 ミスティア・ローレライが、少女と出会った。



 ★



「――え、天使? 誰が? 私が? 天使ぃ? 本当? そう思うの? へぇーえ?」

 少女の呟きを耳聡く聞きとどけたミスティアが、くつくつと可笑しそうに笑いを堪えながら口早に言った。
 少女の来訪、それ自体に別段の驚きは無いらしい。ミスティアの声はやはり快活で、まくし立てるような口調にも関わらず、少女はそれを聞き取る努力を必要としなかった。ミスティアの声はまるで自分から耳に馴染んで来るかのように、すうと快く頭の中へ浸透していくのだった。

......

(※とりあえず公開はここまで。あくまで文章の練習なので、創想話とか産廃とかに投稿することはないと思います。でもしっかりとプロットが決まって、お話が面白くなりそうだったら、続きを書きたいと思います)
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